バー空間の設計美学素材と照明が創り出す唯一無二の体験

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照明がぼんやりと落ち着いた印象を与え、足を踏み入れた瞬間に特別な空気を感じさせる空間がある。そのような場所の代表がバーである。バーに与えられた役割は、単なる酒を飲む場というものにとどまらない。静かなひとときを過ごすためのくつろぎの空間であり、ときには見知らぬ者同士が言葉を交わすコミュニケーションの場にもなる。その雰囲気を形作る要素のひとつが内装に他ならない。

内装にはバーごとに独自の工夫がこらされている。壁面に木材をふんだんに用いた温かみのあるデザインや、磨き上げられた石やタイルを基調にしたモダンな印象のものまで様々だ。選ばれる素材や色調は、提供するドリンクや顧客層、またどのような時間が流れてほしいかという設計者の意図によって大きく異なる。例えば重厚感のある革張りの椅子や厚手のカウンターは、長居したくなるような安心感を与える。一方、背の高いスツールと細いカウンターの組み合わせは気軽に立ち寄って短時間で去る客にも向く造りとなる。

内装の計画を進める際に重視されるのが照明の使い方だ。光は人の感情に与える影響が大きく、明るすぎると落ち着きが失われるため注意が必要だ。間接照明によって柔らかな明るさを演出し、客同士の距離をほどよく感じさせることが多い。グラスやボトルを照らすことでカクテルの色彩や琥珀色のウイスキーがより美しく映え、バーそのものの魅力も引き立つ構造設計がなされる。灯具の選び方によってもイメージは変化し、装飾的なシャンデリアやレトロ感のある裸電球が空間の性格を明確にする。

また、内装のアクセントとして欠かせないのがカウンターである。目の前でバーテンダーがグラスを傾け氷を割る様子は、多くの来店客にとって特別な体験となる。カウンターの高さは立ち飲み文化や椅子に座ってゆっくりと楽しむスタイルなど、多様な楽しみ方に対応できる設計が求められる。材質には広葉樹や耐久性の高い素材が用いられることが多い。手触りの良さだけでなく、経年劣化による味わい深さも内装の魅力につながっている。

収納の工夫も見逃せない要素である。数百本に及ぶ酒瓶やグラス類を美しく整理・展示しながらも、すぐに取り出しやすい機能性も必要とされる。ディスプレイ棚や収納スペースはバーテンダーの動線や見せ方を考慮し配置される。氷をすくう音やシェイカーのリズムが邪魔せずに届くよう、防音や吸音にも細やかな配慮が施されている。設計段階では来店客と働くスタッフの動線が重要視される。

席数やテーブル配置だけでなく、控えめな距離感が保たれるようなエリア分けや視界の確保が求められる。複数人数向けの個室や半個室、窓際の特等席など、多様なニーズに応じたゾーニングが工夫されている。スタッフが効率よく動けるレイアウトは、サービスのスピードや正確さにもつながる。バーテンダーから客席全体が見渡せる設計は、細やかな気配りに直結するポイントとなる。音響の設計も重要な役割を担う。

心地よい音楽を保つためには、スピーカー配置や内装材による反響・吸音を取り入れる工夫が求められる。音楽の趣向や音量ひとつで、空間の体験価値はじわりと変化する。目立たないところにも設計者の技とセンスが光っている。外からの視線を程よく遮る窓のガラスやドアの材質選びもまた、内装設計の一部に含まれる。外の喧騒を感じさせずに静かな時間を過ごしたいというニーズが高い場合、厚みのあるガラスや、すりガラスが選ばれる。

反対に外の風景や賑わいを楽しみたいなら、開口部を広くとる設計になる。室内と屋外の境界を柔軟に設けることで、新たな客層を呼び込む工夫にもつながる。近年では個性的な演出を施したバーの存在感が強まり、多様なコンセプトやテーマをもつ空間が生まれている。アンティークな装飾を施したクラシック志向の空間や、アート作品を取り入れた現代的なBarも増えている。その一つひとつが独自性を追求し、訪れる人に新たな体験を提供している。

文化として根付いたバーの役割は、変化を続けながら今日に至っている。内装や設計の視点から空間を見つめ直すことで、新たな発見やクリエイティブな発想に基づいた空間作りのヒントが得られる。色、素材、香り、照明、音、それぞれが総合的に相まって唯一無二の雰囲気をもたらす空間となる。バーはいまもなお、設計と内装を通じて多様な価値観や感性を受け入れる懐の深い場所として、多くの人々を惹きつけ続けている。バーは単なる酒を楽しむ場ではなく、照明や内装、音響といった空間設計の細やかな工夫によって、特別な雰囲気や居心地を提供する場所である。

木材や石材、革といった素材の選択や色彩、さらには間接照明やグラスを引き立てる光の使い方が、バーごとに異なる個性や楽しみ方を生み出している。カウンターの設計はバーテンダーと客の交流を演出し、収納やディスプレイにも美しさと機能性が両立されている。さらに、席の配置や空間のゾーニング、スタッフの動線や客席からの視界の確保など、営業効率と利用者の快適さが綿密に計算されている点も重要だ。音楽や遮音の工夫、窓のデザインによる外部との隔たりの調整も、場の空気感を左右する要素となる。近年はテーマ性や独自性を持ったバーが増加し、内装デザインを通じて新たな体験価値を追求する動きがみられる。

こうした総合的な設計や内装の工夫により、バーは訪れる人々に唯一無二の時間と空間を提供し続けている。

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